第4章 【桜色】毒占欲 陽性
~Side轟~
俺が見たハイリの表情の中で一番多いのが
今にも泣きそうな顔だ。
その全てが自分の責任の様に思えてやるせなくなる。
「どうした?」
小突かれた頭を手で押さえながら振り返ったハイリは
まさにその表情で
どうしたものかと朝受けた忠告も忘れて髪を撫でる。
返されたのは真っ赤な顔でも、余所余所しい態度でもない
涙声だった。
「轟くんは……怪我、無い?」
躊躇いがちに俺のブレザーを掴み、メガネを掛けたままだってのに覗きこんでくる。
その瞳は俺でさえ読み取れるほどの不安を湛えていた。
「ああ、なんともない。」
恐らく“個性”を使おうとしてるんだろう。
そう思ってメガネを取ってやると
ようやく気づいたようで「あ…」と漏らす。
「ごめん、さっき大怪我してる人見ちゃって…動揺した。」
どうやら午後のヒーロー基礎学で負傷した緑谷を見かけたらしい。面識ないヤツの心配まで出来るハイリはどれだけ優しいんだろうか。
感心はすれど同時に心配にもなった
はっきり言ってキリがねぇ、さっきの調子で際限なく心配してたらコイツの心が持たねぇ。
「確かに怪我をしない保証はねぇが、緑谷のはまた別だ。
見た感じ昨日も今日のも“個性”を使う度に怪我してたからな。」
「昨日も?」
「個性把握テスト。言っただろ?」
「うーん……言ってた気がする。」
説明の甲斐あって下駄箱を出る頃には、授業中の怪我に関する動揺は大分落ち着いた様だった。
ただ
「自分の“個性”で怪我か…この歳で?
なんか聞いた事のない要因だなー…。」
別の気がかりを与えてしまったようだ。