第24章 【空色】インフェリオリティー コンプレックス
~Side轟~
前日のハイリは例外としても
たまに見せる幼い言動は年相応よりまだ下だ
そう思ったことは確かにある。
(俺ン時の比じゃねぇな…。)
リカバリーガールも「随分甘やかした」と言っていた。
ハイリの話を聞く限り
担任に関してはそうじゃねぇと思っていたが
こんなやり取りを見せられちゃ
それももう、説得力がねぇ。
もしかしたら最も警戒すべき相手は
コイツなんじゃねぇかとすら思った。
『せめて明日! 今日一日くらい休んでよ!』
『そりゃ難しい相談だ。』
『んんんんもうっっ!!!』
なんたって理解者だ
どうすりゃ自分の思うようにハイリを扱えるのか
この男は誰よりも理解している。
だから、今思えば
この辺りから手の平で転がされていたんだろう。
ならこーだ
それならあーだ
条件を提示しては往なされる。
学校じゃない事が警戒心を緩めていたんだろうか
重症だった翌日
ここまで回復したことに気が抜けていたんだろうか
それとも
散々往なされてムキになってたんだろうか
いつの間にかハイリは
提案する側からされる側へと立場を変えていた。
『わかった職場復帰は明日にしよう。
お前の治療も受けよう、ただ一つ条件がある。』
よく考えりゃ
治療を受けるなんざ当然の事で
それを交換条件の材料にするなんざおかしな話だったんだ。
だが悉く往なされ続けた
その流れに呑まれて
ハイリは交換条件に飛びついた。
『わかった! 条件ってなぁに?』
『明日以降、指示があるまでお前は普通科に戻ってろ。』
提示された条件に
吠えまくっていた仔犬は
ピタリと鳴きやんだ。
こてんと頭を倒し
時間をかけて条件の意味を理解したんだろう。
言葉は本人の意に反してこぼれ落ちたようだった。
『……えぇぇ』
後ろから見ていた俺にはその表情は見えなかったが
恐らく、相当な間抜け面だったんだろう。
何重にも巻かれた包帯の下にある口元が歪に動き
いつぞやの担任の笑みがフラッシュバックする。
こうなってくると
「明日職場復帰」ってのも
元からその予定だったんじゃねぇか
そんな気がしてならねぇ。