第23章 【空色】自立神経失調症
~Side爆豪~
一瞬見えた表情はわからずとも
その姿は紛れもなく……
「今の…ハイリちゃんだよな?」
なんせクラス一同の目の前で
警察の後をついて行ったんだ
確認するまでもねぇ…。
(こんな時間まで親父の言い付けで
警察ごっこしてやがったのかアイツ…。)
上鳴の一言に
誰が言い出すでもなく進行方向は巻き戻った。
コソコソ後をつける理由もねぇ
そんなやましい事じゃねぇ
保った距離はあくまでそれなりだった。
勘だけは良い女だ
普段のあいつなら容易に気付ける距離だろう。
だが、ハイリは後ろを見向きもしなかった。
そんな余裕なんざねぇ
そんな紙が背に貼ってあるかのように見えた。
十メートルもねぇ視線の先にあるのは
予想通りの目的地、自クラスの教室のドア。
大きく肩で息をしたハイリは
まるで化け物屋敷のドアでも開くかのように
そろりとドアに細い指を掛けた
開いて固まったその女の時が動くまで
時にして数秒
この距離でもわかる
動揺を隠せてねぇ目で室内を確認すると
くたりと表情を崩して中へと駆け入った。
「焦凍っっ。」
タン…と音を立て反動で閉まったドア。
遮られて尚、ここまで届いたのは
さっき振り払ったばかりの男の名。
普段のハイリからは想像もつかねぇほどの
縋りつくような悲痛な声。
俺らも教室のドアまで来たは良いものの
誰の手もそのドアに手を掛けようとはしやしねぇ
中から聞こえてきた声が
ありありとその情景を伝えていたからだ。
「さっきはごめんなさい…その、手…。」
「わかってる。」
狼狽えた声と穏やかな声は
仮にもクラスメイトのものであるにもかかわらず
聞き覚えの無さから
二人以外にも誰かいるんじゃねぇか…
そう思わせるほどのモンだった
だが
「皆はもう、帰った…のかな?」
「ああ…」
会話の内容が告げる
教室内には二人しかいねぇんだと。
くぐもった声が見せる
ハイリが轟の胸に顔を埋めてる光景を。
「だからもう、泣いていい…。」
穏やかな声色が映す
あの亜麻色の髪をいつもの手付きで撫でている、男の姿を。