第23章 【空色】自立神経失調症
~Sideハイリ~
「違います!」
もう何しに来たのこの人は。
張り詰めていた空気を壊すかのように突如現れた父。
いや、この人の事だから
壊す為にこんな事をしたんだろう。
例え仕事優先で滅多に家にいないと言えど
父の私に対する愛情を疑ったことなんて一度としてない。
(でもだからって……。)
いきなりやってきてあんな事すれば
彼氏じゃなくたって不振がるよ普通。
なんせここに居るのはヒーローの卵たち
不審者には特に敏感な人種だ。
ただでさえヴィラン襲撃を受けたばかりで
気が立ってる人だって
警戒心剥き出しの人だって居るのに…。
(心配してくれてるってのは
伝わって来るんだけどね…。)
母が居ないせいか父は私に激甘だ。
私の教育が雄英に託されたのも
父ではまともな子に育たないだろうと言う
ちよちゃんの判断だと聞くくらい…。
その父が何故
私に付き合っている人が居ることを知っているのか…。
(誰が報告したんだろうか…?)
出来れば隠しておきたかったけれど
対面してしまってはもう隠せない。
嘘をついたら逆効果だ。
かと言って、そう易々と教えてなるものか
父親が娘の恋人に良い思いを抱かないのは世の常だもの。
私にしては頭も回った方だろう
巻きついた腕をほどきながら
咄嗟に話を挿げ替えてみたはいいけれど
「彼はクラスメイト!
どうして知ってるのか是非聞きたいところなんだけどっ?」
「ではどの子かな?」
まだ親に勝てる器ではなかった
皮肉に乗せた問いは鮮やかに往なされた。
「それはー……。」
良い返しを思いつかない。
咄嗟の嘘が出てこないだけじゃない
嘘をつきたくても付けないのだ。
この男に嘘は通じない
“個性” Lies or Truth
相手の目を凝視する事によってその言葉の真偽を図る。
全く、厄介な父を持ったものだ。
お年頃の乙女の天敵だ。
なのにお父さんは、私の不満を逆撫でするかのように
微笑みすぎて開けてないであろう視線を巡らせる。
「ああ、君か。」
「お父さんっやめてったら!」
必死の制止も虚しく響く
“個性”を使ったかはわからない
大方、下調べはしてきたのだろう。
これだけの男子生徒がいる中で
お父さんは私の大切な人を一発で探し当ててしまった。