第23章 【空色】自立神経失調症
~Side爆豪~
「緑谷くんっ!」
風を伴って横を過ぎ去っていく
石鹸みてぇな香りだけを残して。
診断前からデクが重傷だとわかってんのは
度重なる怪我の所為ってか?
抱えられたデクに駆け寄ったハイリは
真剣な瞳で数秒目を凝視した後
ぺしっと患者の額を叩き、
ケラケラと表情を崩して笑いを上げた。
「んーっ思ってたより、軽症軽症!
保健室行きだねっ!」
「す、すみません。」
「私に謝ってどーすんのさっ!
鎮痛剤だけ打っとくよっ?」
どう見たって軽症じゃねぇ。
いつものこった。
どんな怪我だろうが
ハイリはいつも、なんて事無いかのように笑う。
それは患者が一番よくわかってんだろう。
デクの方が身の置き場もなさそうな顔をしてやがる。
わざとらしい程の笑いがフッと苦笑に変わった瞬間、細い手首がフルフルと振られた。
キュインと音を立てて針状に伸びたそれは、中程から筒状に形を広げ見慣れた形を瞬時に作り上げる。
形のいい口元に弧を描き
悪い子にはお仕置きと言わんばかりの目が
デクを見下ろす。
「ちゅ、注射はー…。」
「結構余裕だね、緑谷クン?」
あれがアイツの投薬。
見んのは初めてじゃねぇが
注射治療を受けた事があんのはクラス内でもデクだけだ。
恐らく、体力を大幅に使うんだろう。
さも軽く施してるように見えるが
それだけの怪我だと判断したんだろう。
「痛っっ!!!」
「ぜーんぜん痛くないよー
痛くないから動かないでーッ!」
無駄に元気な声が騒めくゲート前で響く。
「はい口開けてーリカバリーガールの治療は体力持って行かれるからね。」
「は…い。」
「開ける! そして飲み込む!」
「はいぃぃっ!」
経口投与って程のモンじゃねぇだろう
手の平から出した錠剤を口の中に放りデクの肩をポンと叩く。
リカバリー前に渡される、よく見るヤツだ
アイツの与薬はあれが一番多い。
体力補助の為のサプリだか何だか知らねぇが
初めて渡された時
こんな怪しいもん食えるかと拒絶した
あン時の気まずそうなハイリの顔が
今となっちゃ忘れられねぇ…。
「いってらっしゃ~い。」
そんなことを考えていた所為かもしれねぇ
抱えられ、保健室へと向かうデクを見送る後姿は
ひどく、悲し気なモンに見えた。