第23章 【空色】自立神経失調症
~Sideハイリ~
きっと
ここに私は来てはいけなかったのだろう。
現状を目の当たりにして初めて知った
ヒーロー基礎学中のヴィランの襲撃
教師二人は重体。
三人目のオールマイトは今まさに
戦いを終えたところ。
ヴィランの“個性”によって
散り散りにされた生徒の安否は
これから確認するとの事だった。
説明をしてくれながらも
ねむりちゃんの動揺は隠せていない
他の教師だって…
だけど、問われるより先に
彼女たちの問いを代弁するかのように
その声は張り上げられた。
「テメェ、なんでここに居やがるっ。」
怒鳴りながらずかずかとやってきた一生徒
彼の手によって
三奈ちゃんの髪を撫でていた私の手は捻りあげられた。
「爆豪くん…。」
驚いたのは一瞬の事。
張り詰めていた気がようやく緩んだ。
それはきっと安心したからで
力の抜けた私の笑みに
爆豪くんは訳わからないと言った表情を浮かべた。
「ッ笑ってんじゃねぇ…。」
「いや、安心したんだよ?
君がやられてたら、絶望的だもん。」
「やられっかクソがッ!」
捻りあげられた
そう表現したけれど、実際は全然痛くない。
不自然に捕まれた手首は多分
彼が動揺しているからだろう。
戦闘能力のない私を
心配してくれているのだろう。
変わらない悪態がこんなに嬉しい
きっと今後二度と来ないであろう感情だ。
たとえそれがいつもより覇気が無くとも
今は十分すぎる程だった。
「良かったよ、ホントに。」
思わず手が伸びた
頬に手を添えてその両眼を覗きこむ。
僅かな擦過傷を除けば無傷。
この程度なら投薬はしない方がいい。
(良かった…。)
もう一度大きく息をついた。
ゲート付近に残っていたクラスメイトもほぼ無傷
後は――…
施設内を見渡そうと振り返ると
ずっとその安否が気になっていた彼が立っていた。
静かに近づいて
私の顔を覗きこむ。
問う声はその挙動同様、静かなものだった。
「大丈夫か?」