第23章 【空色】自立神経失調症
メガネが無いせいか今日は視界がクリアだ。
それはハイリの“個性”に合わせて作った特別なメガネだったから等という訳でなく、実際のところそんな気がするだけだ。
「診まーす!」
「は、はいっ!」
声を掛けるより前に
少女の目はもう診ようとしている。
意識するより先に
“個性”が動き出しているかのように。
だけどこれも実際は
もう癖付いてしまっていて
勝手に“個性”が発動している訳ではない。
幼い頃から“個性”の訓練をさせられてきた
その習慣がここまで身についてしまっているのか
それもこのクラスに来て初めて知った。
メガネを取られてしまった今
診察としてじゃなくとも
向かい合っただけで少女は診てしまうんだろう。
そう考えれば
あの合理性重視の男が
メガネをくれた理由も頷ける。
少女はそう理解していた。
中学3年の春休み、
一方的に送り付けられてきたべっ甲柄の伊達メガネ。
【高校生活はこれで過ごせ。】
その味気のないメモに呆れはしたものの
同時に感謝もした。
自分の“個性”のデメリットは
痛いほど身に刻まれているからだ。
それゆえの疑問
その眼鏡を奪われたという事は…
(それを抑える訓練をしろ…って事よね?)
『眠りこけないようになれ』
あの言葉からして間違いないのだろう
そんなことを考える間に既に5秒
(なら最初から渡さなきゃいいのに)
頭の内側に文句を並べながら
僅かに緑谷に寄せていた上体を起こした。