第22章 ♦番外編♦ ちょこれぃとホリック
優しい声音が警戒を解く
老婆は理解していた。
この娘が自分に話せないとなるとその原因は恐らく色恋沙汰。
あの少年の事なのだろうと。
少女はぽつり、ぽつりと
一文字ずつ慎重に並べるかの如く
ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「あのね…今日、バレンタイン…でしょ?」
おずおずと視線を上げる少女は
まるで親に怒られて身を縮めた子供の様。
こんなペースで話しては長くなりそうだ
出来るだけ端的に、簡潔に
返した言葉は選んだつもりだった。
「そうだね、だから何だってんだい?
まさかチョコレートを
跳ねのけられたって訳でもあるまいし…。」
そして、老婆は言葉を止めた。
ピクリと跳ねた少女の肩に
強張ったまま固まってしまったその表情に
(まさか…。)
いつもなら出るだろう溜め息すら出てこない
どの様な配慮をしてやるべきか
老婆はその小さな頭を巡らせて
導き出した結論を述べた。
「ここは落ち着かないだろう?
仮眠室を借りてやるから、そこでお休み。」
「ありがとう……。」
詳細を聞いてもハイリが辛くなってしまうだけだろう。
今は一人にしてやるべきだ。
手続きを終えた用紙を渡し、内線電話に手を掛ける。
意気消沈したまま立ち上がった少女が部屋を去るまで
何も言葉を発さなかった。
否、発せなかった。