第22章 ♦番外編♦ ちょこれぃとホリック
「一体何があったんだい…
ったくここは駆け込み寺じゃないんだよ?」
教室より幾分湿度高めのここは
普通ならケガや病気の生徒しか立ち入らないであろう保健室。
その城の主――リカバリーガールは
そう文句を言いながらも
淹れたばかりの茶を少女に差し出した。
コトリと音をたてたのはわざとだった。
少女はその音に反応し
何処を見ているでもない瞳を上げ
音もたてずその湯呑を手にする。
死んだ魚のような目とよく言うが
まさにそれだ。
リカバリーガールは全く口を開く気配のない孫同然の少女に、何度目かのため息をつき
向かい合っている椅子へと腰かけ言った。
「珍しいじゃないか
お前がそんなに感情を露わにして。」
わかってる。
少女は口には出さず目を伏せた。
手元にはゆらりと揺れる鮮やかで透き通った緑色
映る自分の表情に下がった眉は更に角度を付けた。
例え長年の相談相手でも相談しずらい
問いを受けても言葉に詰まるばかり。
うっ…と言葉を飲み、代わりに出たのは溜息だ。
(わかってる、私らしくない。
あの程度で怒るなんて……)
途中すれ違った担任も、知り合いの先輩も
その勢いにのまれたのか何も言葉を掛けない程だった。
私らしくないのだろう
ここに辿り着くまでの僅かな間に
少女は痛いほどに自覚した。
だがそれでもこの感情は
容易に収めることが出来る代物ではないのだ。
はぁと落ちた溜め息はもう何度目か。
それは自分のものではない。
目の前の老婆のものだった。
「聞いてやるから言ってみな?」