第21章 【琥珀色】インプリンティング
弟とハイリ
二人が見えなくなるまで見送り続けていた姉は
振っていた手を静かに止め
軽く握り締めたその手をゆっくりと胸元まで下した。
口元に宿るのは穏やかな笑み
共に思い出すのは昨日の事。
胸の内で呟いたのは
(ありがとう…。)
感謝の念だった。
彼女のハイリに対する第一印象は
精巧に作られた人形。
昔、母に強請ったあのビスクドールの様な
弟は面食いだったのかと
内心笑ってしまったが
どうやらそれだけではないようだった。
『初めまして、楠梨ハイリです。』
ぺこりと頭を下げて
おずおずと菓子箱を差し出す。
家出していた本人より
申し訳なさそうに頭を下げる。
その仕草に笑みと言葉を返すと
人形の様な少女はやっと
安心したように柔らかくはにかんでくれた。
途端に人形に命が吹き込まれたかの様だった。
風が吹き込んだ訳でもないのに
柔らかそうな髪はふわり揺れ
白い頬には紅が差す。
髪色と同じ色味の瞳は光を集めたかのよう。
笑み一つでこんなにも雰囲気が変わる子がいるのかと
その陽だまりの様な雰囲気に
心底安堵し、同時に感謝した。
隣に立つ弟の表情が
柔らかな線を描いていたからだ。
目を細め大切なものを見るようなその眼差しに
胸の奥深くから安堵の息が漏れ出でた。
(本当にあの子で良かった…。)
自分が弟に与えてあげられなかったものを
彼女は与えてくれたのだろう。
弟たちが向かった方角を見つめたまま、深く礼をする。
そして笑みを浮かべたまま郵便物を確認し、
家の中へと戻っていった。