第21章 【琥珀色】インプリンティング
郵便物の宛名はその殆どが父のものだった。
いつもの通り父の部屋へ
そこに父は居なかった。
「訓練場かしら…?」
呟いてみたものの、これも珍しいことではない。
特に気にも止めず
いつもそうしているように
文机の上に郵便物を重ねて置く。
その拍子
ひらりと何か紙のようなものが
視界をかすめて落ちていった。
どうやら元々置いてあったものを
落としてしまったようだ。
「あぁ…いけない。」
最近独り言が増えた気がする
そんな自分に苦笑しながら
伏せられた紙を拾い上げる。
普通の紙にしてはやや硬い光沢を帯びた紙は
その手触りで表を見る前に、何かすぐに気付く程のもの。
「写真…?」
呟くと同時に表に返し目を見張る。
そこに映っている少女に見覚えがあったからだ。
「この子……っ!」
見覚えがあるどころではない。
たった今見送ったばかりの少女。
目の前の現実に
父に向けられた昨日の弟の言葉と
ナイフのような目つきが脳裏を過る。
『コイツの事知ってんだよな?』
どうするべきか…
弟に伝えるべきか…
間違いなく伝えるべきなのだろう。
だが、伝えたところでどうなる?
親子の確執が深まるばかりだ。
そこに何の利も生まれないし
そんなこと、この優しい少女だって望みはしないだろう。
だからと言ってこの事実を見て見ぬフリなど、出来るはずもない。
(どうしよう…。)
周囲を見渡す
やましい事をしている気分だ。
誰も居ない
気配も無い
それだけ確認した姉は
その写真をそっとポケットに忍ばせ、静かに部屋を後にした。
廻り始める
一つだけピンの欠けたオルゴールが――…
何度奏でても戻りはしないその音は
癒しの音色をどこか哀愁あるものへと塗り替えていく
不完全な音色は、運命は
果たして何処へ向かうのか……。
今はまだ、狭くて暗い懐の中にその身を忍ばせて……。