第21章 【琥珀色】インプリンティング
~Sideハイリ~
口を手で覆ったまま首を傾け、視線は足元へ
どこかに心を置いてきたような焦凍の表情は
初めて目にするものだ。
「どうしたの?」
思わず尋ねた。
だってあまりにも……
「いや、困ってる。」
そうだ、ちょっと困ったような
いやいやちょっと所じゃない
困ったというか悩んでる?
目は泳いでるし
冷や汗は浮かんでるし
動揺がはっきりと見えすぎてる。
冷静な轟焦凍くんらしからぬ表情と言うべきか。
堪らず瞳を覗きこんだ。
「どしたの? ちょっと診せて?」
焦凍の肩に手を添えて背伸びをすると
腕が背に回ってきて私達の間の距離は無くなった。
スルリと腕から逃げていった鞄が爪先を叩いたのはわかっても、身じろぎさえ出来やしない。
「焦凍…?」
「困ってる…。」
念押しのように繰り返された言葉は
とても小さいのに頭に響く。
こんな往来で…
いつもの言葉がでなかったのは
昨日の会話のためだろうか
それともこの、
噛み合っていない言葉と行動のせいだろうか
何から尋ねればいい?
そんな事考えても、きっと意味は無い。
「困るなんてそれこそ珍しい…よね。」
戸惑いながらもその感情は表に出せてない
目の前にそれ以上に動揺している人がいるからだ。
背を撫でながら首を回すと
さっき見た困り果てた顔は赤に色を変えていた。
(んん…?)
ますますわからない…
私が赤面するならともかく、
なんで焦凍が…?
答えが出てくるまで私は頭を傾げたまま
赤くなった首筋を見ていた。