第21章 【琥珀色】インプリンティング
~Sideハイリ~
感情の波が押し寄せて
細い思考回路は一気に渋滞を起こした。
言葉に詰まって俯く頬を
髪を撫でていた指がつつく。
返事を急かされているんだろう
わかっていても
唇を噛み締めたままの今の私では
一言紡ぐことさえ難しい。
それでもちゃんと伝わる
そんな関係を手放したくないと
今、心から願う。
「良かった、安心した…。」
俯いた視界で安堵の息が髪を揺らす。
光に煌めく雫がはらはらと落ちて、おろしたての浴衣の上を転がり落ちていく。
簡単に永遠なんて信じられない
幼い頃から刷り込まれた恐怖は
そう簡単に拭えない。
だけどこんな約束なら
いくらあっても良いと思う。
(凄いな、焦凍は…。)
濡れた笑みを上げると
返って来たのは小さな約束だ。
「手始めに、明日の夕飯か?」
「ん…って、どうせお蕎麦でしょ?」
「……なんでわかったんだ?」
堪らず笑う。
小さく、穏やかに。
安心したように笑い返してくれるのが嬉しくて
何か言いたいのに、笑いが止まらず何も言えそうにない。
たかが笑み一つ、
それでも土が水を吸うように
理解が深まっていく心地だった。
私達は面白いくらい正反対だ。
真逆の環境を
真逆の感情で生きて来た。
なのに、その根っこは同じとこにある。
その所為か
欲しいものと与えられるものが綺麗に重なっていて
そんな部分を本能が求めて止まないから
離れられないじゃないかって。
だから別れる日が来るのが
怖くてたまらないんじゃないかって。
半人前な私たちは
文字通り、二人で一人なのだろう。
「そりゃわかるよ、もう…。」
夜風が笑う
未熟で不完全な子供の約束を
池の水面も
揺れる木々も
柔らかな光も
そこにもう一つ
柱の向こうで静かに笑う人影に
私達が気付くことなど無かった。