第21章 【琥珀色】インプリンティング
~Side轟~
立てた人差し指で俺の鼻先をつつき
また笑う。
勿体つけた話し方は
コイツの得意技だ。
ハイリが楽しそうだからそれでいい
さっきの詫びに
いつまでも付き合うつもりだった。
だがその話は突然
確信を突いてきた。
「個性婚じゃなかったら
焦凍は産まれてないんだよね…?」
頬を撫でた風は
そよいだ程度だった。
「そう考えたら
嫌いどころか感謝、だよねぇ…。」
風に置いて行かれた
僅かな風に景色だけが動かされた。
例えるならそんな感じだ。
俺以外の全ての物は動いているってのに
自分だけが動けねぇ。
月が雲に隠れ、陰が増す
薄闇の中でハイリの声だけが直接頭に響く。
答えは
月が再び顔を出すのと同時に紡がれた。
「嫌いじゃなくなったよ、変わったの。
約束も怖くなくなると思うんだ。
だからね…?」
辺りにゆっくりと柔らかな光が戻って来る。
ぼやけていた影が順番に輪郭を取り戻していく。
ハイリにも光は確かに射したってのに
その顔は耳元に寄せられた所為で見えやしねぇ。
「もう少し待って欲しい。」
囁く吐息が耳を掠めていく。
俺は未だに置いて行かれたまま
離れていく真剣な顔から目が離せなかった。
「ね、凄いよね?
そんな人に出会って、好きになって
その人が自分を好きになってくれるって
どんな確率で、どんな奇跡なんだろうね?」
盲亀浮木
真面目な雰囲気を無理にぶち壊すかのように
突然仏教学を語りだしては笑う。
向けられた笑みは
お道化て笑っていたあの夜とは違う
穏やかで優しい
きっと、本物の笑顔だ。
(――――…?)
思わず胸を掴んだ
何かが大きく音をたてて転がった様な
何かで胸ン中をぎゅっと縛られたような…
得体のしれねぇこの感じは
前にも経験したことのある
だが、
あの時よりずっと大きくて強いモンだ。
長く絡み合った視線を逸らして地に落とす。
今度は俺が答える番なんだろう
詰まったのは言葉じゃねぇ
迷いなく浮かんだ言葉を
そのまま返してもいいもんか
ほんの一瞬だけ、躊躇した。