第3章 【桜色】恋愛性免疫不全
~Side轟~
ネクタイが無い事に気付いたのは割と早かった。
だからその所在に頭を悩ませる必要もなく
かえって好都合だとすら思えた。
「運命的出会いキターーーーー!!」
入学二日目の教室は昨日にも増して賑々しい。
そりゃここはヒーロー科、“個性”も個性も強い奴らばかりだろうから当たり前なんだろうが…。
そんな理由では足りないくらい
一人教室内で雄叫びに近い叫びをあげるヤツに
俺だけでなくクラス内の殆どが注視した。
アイツは確か…
(上鳴だったか。)
昨日の記憶を引っ張り出す。
これと言って言葉を交わしたわけでもないが
無駄に賑やかなヤツ、そう記憶している。
「ゆるふわ癒し系!!
思わず抱き締めそうんなったぜッッ!!」
「やんなくて正解だな。
彼氏でもねぇのにやったらただの変質者だ。」
ガッツポーズを決め込んでいる上鳴に誰かが突っ込む。
その言葉に色々と連想させられるものはあったが
その全てはハイリに繋がっていた。
(あんな顔するから頭から離れねぇ…。)
そんな思いもあって
賑やかの中心に居る上鳴をなんとなく見る。
散々いじられてもめげずに語るソイツは、その全てをスルーしぐるりと室内を見渡した後、ピタと俺に目を止めた。
「おまえさっ、ネクタイ無くしたん?」
脈絡がねぇ……。
上がったテンションのまま声を掛けられども、こちらは上がるはずもなくただ「ああ。」と返す。
温度差甚だしいにもめげず軽くスルーされ、「じゃーん!」と効果音を付けながら差し出されたのは皆が首元に締めているネクタイだった。
「爆豪は違うらしいんだよな~
あと付けてねぇのお前だけだし!」
ここまで言われれば何を言いたいのかは理解できた。
つまり、これは俺のかと尋ねたい訳だ。
こんな所にあるはずもなし、違うと思いながらも目の前に差し出されたネクタイを手に取る。
確認しなければ違うとも言えねぇからだ。