第3章 【桜色】恋愛性免疫不全
~Side轟~
軽く手に取り目線を赤い布に落とす
誰がどう見ても雄英の制服のタイであるそれには
名など記されているはずもなく、
(持ち主探すのも骨が折れそうだ。
ご苦労なこった。)
など考えながら裏返す。
同時にふわりと鼻をかすめた覚えある香りに
手が止まった。
ほのかに甘さのある石鹸の泡の様なフワフワした香り。
忘れようもない、昨夜一晩中この香りを抱いていたのだから。
正直、上鳴の言う『ゆるふわ系』の意味はよくわからなかった。
だけど、音だけ聞いてもあいつはそんな感じだ。
なんで無くした事になってるのかは疑問に思ったが、ハイリの朝の態度を思い返せば大体察しはつく。
「ああ、」と漏れ出た言葉は無意識だったが
それに上鳴は「やっぱりな~」といって輪の中へと戻りまた話の中に座した。
「たぶんヒーロー科って感じじゃなかったんだよな~
もっかい会いてえ…会ってギュってしてえ……」
「だからまず告ろうな?
フラれることだってあり得るんだからな?」
一人世界に浸る級友に絶えず突っ込みを入れているのは
確か切島だ。
その言葉は投げられたはずの本人より自分に当てはまっていて、タイを締める手に力が籠る。
(告白……
そういう発想はなかった。)
ズレているのはどうも上鳴だけではないらしい。
上の空で結んだネクタイは少し歪だ。
予鈴が鳴ったこともあってシュルと音をたてて解いたそれを鞄へと入れる。
ハイリと同じ香りを纏う布をこれ以上外に晒す気にもなれない。そんな思いからだった。