第20章 【琥珀色】月光欲
~Side轟~
仮初の宿に誘いこまれた蝶は
ふわりと一度翅を開き、閉じた
迷子になったが最後
絡みついたのは蜘蛛の糸
抵抗すればする程に
翅は乱れて広がっていく
縛り上げた両手を頭の上に纏め上げ、右手を翳す。
パキとなった固い音と揺蕩う冷気に
捕らえられた蝶は翅を広げんと一度だけ身を捩った。
「……え?」
自分の状態を一目でもと小さな頭を上向ける。
クロスした両手の先
帯を貫く氷杭を視界に収め
広げかけた翅を閉じる。
抵抗する事を恐れなくていい。
もがくことを止めなくていい。
俺はもう、知ってんだ…
「ハイリは無理矢理…好きだよな?」
無理矢理と言う程嫌がってもいない
羞恥とモラルがそうさせているだけだ。
なら尚の事
俺の気持ちがどれ程のモンか
知ってもらわなきゃ困る。
俺の言葉にハイリの目元が恥じらいに染まる。
一段と羞恥が見えるのは
ここが俺の実家だからだろうか…
「そんなんじゃ…。」
恥じらいから目を逸らすハイリ。
纏う淡い紫色だった筈の布は
月光に明度を上げ、もう白に近い。
その真っ白な翅に手を伸ばし
壊さないように、破らないように広げていく
褥に貼り付けられた蝶を
標本を愛でるかの様に眺めると
抵抗する術を失った身体はただ熱を上げ
あられもない姿を惜しみなく晒す。
「綺麗な蝶だな…。」
「蝶…?」
「ああ、俺だけの蝶だ。」
「あの…ぁっ」
そっと胸に触れるだけで
甘い声を漏らす。
綺麗なハイリ…
「良い声で啼いてくれ…。」
「だめ…だってばっ」
「わかってるって言ってんだろ?」
柔肌を溶かす月明かりを俺の影が覆う
甘い声が月夜に溶けていく
さあ、聞かせてくれ…
俺だけが奏でることが出来る
高くて甘い、お前の音色を…。