第19章 【琥珀色】訪問診療録(後編)
~Sideハイリ~
(あれ…?
これって―――…)
パタン…スッ…
聴こえる音が言語化されていく
昼間追った文字に重なっていく
次第に足音まで聞こえて来て…
泳ぐ視線を畳に落とすと
枕の横に雑におかれた本の表紙と目が合った。
旅館
和室
浴衣
布団
襖
(嘘……っ)
自宅だったら
ここまで震え上がることは無かったかもしれない
だけどここは大きな日本家屋で
畳の部屋で
布団が敷かれていて
加えて私、浴衣だし
襖まであるし
全てのピースがカチリとハマる
頭の中で描いていた本の中の風景を
思い出せば思い出す程、重なっていく。
(冗談でしょ…)
慌てて布団を被って耳を澄ます
もう夏が近いっていうのに指先が冷たい。
その指をぎゅっと丸めこんで大きく息を吸いこんだその時
スッ……
この部屋の障子がスライドする音が聞こえた。
ミシ…と畳が軋む。
心臓はうるさい程警笛を鳴らしている言うのに
耳はしっかりと嫌な音を拾う。
(部屋の中まで入ってきた……っ)
呼吸さえも止めてしまいたくて
思わず両手で口を塞いだ。
そしてあのセリフが落ちて来る
「みつけた…。」
今だって布団の中だ
完全にブラックアウト
外がどんな状況なのかわからない。
それでもソレは私の布団の隣に佇んで見下ろしている。
そこまで脳裏に描いたというのに
まるで答え合わせだと言うかのように
私を覆っていた布団はあっさりと剥がされた。
「………何してんだ?」