第19章 【琥珀色】訪問診療録(後編)
~Side轟~
「しょ……と?」
「ああ。」
やっと見つけた。
客を泊めンならこの辺の部屋だろう。
文字通り片っ端から廊下伝いに確認して
ようやく見つけたハイリは
寝てたにしては随分と息も身なりも乱れていた。
狐につままれたような顔がふにゃりと力を無くし
一気に距離が詰まる
「しょーとっ、焦凍っ、焦凍焦凍焦凍ぉぉぉっ!!」
一瞬
何が起きたのか理解できなかった。
あまりに予想外だと
人間、把握出来てもそれを信じられねぇんだろう。
天井を見上げた視線を落とし
自分の状態を確認する。
間違いねぇ…
(まさかハイリに
押し倒される日が来るとは思わなかったな。)
正確には抱きついた勢いで倒れちまっただけだが
胸に縋りついては泣きじゃくる。
「どうした?」
「おばけ…かとっ…っおも、った…ぅっく。」
なんかあったのかと
尋ねてみりゃ、なんとも呑気な理由だ
俺の上でぐしぐしと泣きじゃくっては
人の服で涙を拭く。
締め忘れた障子から月明かりが差して
照らされた本にようやく合点がいった。
(成程……。)
ただ話したくて来ただけだ
結構真面目な話だったはずだ
ハイリに対してイラついてたくらいだ
髪をかき上げ大きく溜息をつく
その手をハイリに回し、髪を撫でて、背を撫でて
ハイリが落ち着くように
俺が落ち着くように
だがどうやら
無理だったみてぇだ。
「そりゃ、残念だったな。」
「残念…?」
ああ、残念だ。
こんな体勢じゃなきゃ話して終わっただろうに
こんな姿じゃなきゃ理性も留まっただろうに
このタイミングでスマホが鳴らなきゃ…
淡い光を伴って
布団の上でスマホが小刻みにその身を振るう
着信を知らせるバイブレーション
表示されたその名に
溜まっていたストレスが濁流のごとく流れ出す。
機械的な光が灯った部屋は確かに光度が上がった筈なのに
月が雲に隠れた為か影の方が増したように思う。
爆豪勝己
照らし出されたその名に目もくれず
ハイリは不思議そうに俺を見つめている
今はただそんな事が嬉しかった。