第19章 【琥珀色】訪問診療録(後編)
~Side轟~
震える肩が大きく上がってすとんと落とされた。
深呼吸なんざらしくもねぇ
緊張してんのか。
背を向けられたってのに
ハイリがどんな顔で笑ってんのか
見えるようだった。
「子どもの遊びだって
結構、一生懸命なんです。」
震える声に
伸ばしかけた手は姉さんによって阻まれた。
小さく首を横に振り
まるでハイリの事をわかってるような素振りに
頭が静かに混乱していく。
こんな事言わせて何になる
相手にする価値がどこにある
何処にも利点が見当たらねぇ
冷静さを欠いた頭は
必要以上に癒しを求めて止まない
だがその癒しは今
俺が最も忌む相手と対峙して
聞きたくなかった言葉を吐いた。
「気は変わるものだって私も思います。
もし焦凍くんの気が変わってしまった時は
後腐れなく別れるとお約束します。
だから今はまだ…」
泡沫の夢を見ていたいと
握りしめられた手が血の気を無くし白んでいく。
これじゃまるで
別れる前提で付き合ってるみてぇだ。
こんな事言わせてんのは親父なのか俺なのか
掴みかかるべきは
クソ親父なのか姉さんなのか、それともハイリなのか…
拳を向ける相手がわからねぇ
「焦凍よりは余程物分かりが良い様だ。」
親父の声が響き
もう気が済んだと言わんばかりに足音が去っていく。
肩に添えられるのは姉さんの手
その手が背へ回り風呂へ行けと促される。
更に握りしめられた俺の拳はハイリに負けないくらいに白んでいた。