第19章 【琥珀色】訪問診療録(後編)
~Sideハイリ~
焦凍が非常識だとは思ってない
ただちょっと、素直すぎるだけ。
だからこそ私には注意が難しいのだ。
姉弟と言っても
性格は全然違う。
小学校教諭であるお姉さんは
きっと良識の持ち主なのだろう。
大人だし
実の姉だし
流石の焦凍もお姉さんの言う事なら聞くだろう。
いい機会だと思った私は、黙って様子を見守ることにした。
「い け ま せんっ!」
「…………………?」
お盆の上にお菓子を盛り直しながら
お姉さんは大きなため息をつく。
問題発言した弟に喝まで入れたのに
その弟は顔色一つ変えず
何が悪い?と問わんばかりの表情ならば
しょうがないだろう…。
これ程
疑問符が似合う高校男子も珍しい。
(お姉さんでも無理なのかな…。)
溜息は二人分
疑問符で埋め尽くされた空間に落ちていく。
焦凍は焦凍で
何が悪いのか真剣に考えているようだ。
その表情がまた溜息を誘う
堂々巡りだ。
「いくら付き合っているとはいえ
嫁入り前のお嬢さんなのよ?
家に泊めるからには保護者として黙認は出来ません。」
「家じゃなきゃいいのか?」
「良いとは言えません。
もしもの事があったら、どうするの?」
お姉さんの言葉に耳を傷めたのは焦凍じゃない
私の方だった。
一晩どころじゃない
入学してから今日まで一緒に暮らしているんだ
毎夜ベッドを共にしてるんだ。
そりゃバレるだろう。
例え関係を結んでなくても、そう思われるものだろう。
何とも複雑な状況になって来た。
ここは大人しく言うこと聞いて欲しい
願いを込めた視線は
どう受け止められたのか。
真っ直ぐに伝わってない事だけは…確かだった。
「問題ねぇ…責任とる。」
「「…………え?」」
「結婚する。」