第19章 【琥珀色】訪問診療録(後編)
~Sideハイリ~
猫って
じっとしていたかと思ったら
突然フラリと動き始めて
火がついたようにエサを強請ったりするよね。
猫に似てるなって良く思うけど
こういう所が特に似てるなって
…………思うんだよね。
「よし、行くぞ。」
今の今まで仰向けになって天井を見上げ
考え事をしてたと思ってたのに
見事な腹筋と言うべきか
難無く起き上がり、私の手を取って私より先に立ち上がる。
「っ何処に!?」
私の疑問はごく自然なものだろう
さっきまで帰るだ帰らないだの話をしていたんだ。
帰らない方向で纏まったばかりなのに一体何処へ――…
訳も分からぬまま立ち上がった私に
悪戯に光る瞳が近付いた
自分の実家で見せるにはあまりに色を帯びたその表情は、誘うようにクスリと笑い、私の手首を握るその手に力が籠る。
逃がさない
その言葉の代わりに出て来た誘い文句は…
「俺の部屋。
色々溜まってんだ、癒して貰う。」
結構直球だった。
こうも直球だと羞恥よりもトキメキよりも…。
「ちょ…っと待って…?」
ツッコミ精神の方が増し増しだ。
溜まってるってストレスだよね?
癒すってマッサージかな?
いつの間にご機嫌になったんだろう?
嬉しいけど、この切り替わりに付いて行ける気がしない。
そもそもここは親、姉のいる実家だ
ん? 私の勘違い?
自意識過剰なのかな…
気まぐれ猫は今日も絶好調。
渋る私の両手を見事に片手でまとめて掴む
これじゃぁまるで連行だ
部屋から出たところでお姉さんと鉢合わせしなければ、確実に連れて行かれていただろう。
「あれ?
二人ともどこ行くの?」
「俺の部屋、今夜泊める。」
正直、
素直すぎるのもここまで来ると問題だとしか言いようがない。
唖然としたお姉さんは
お菓子を乗せていたお盆からお菓子を取り去って
――バコン
子気味良い音を響かせ
そのお盆で紅白の頭をどついた。