第18章 ♦番外編♦ 紅白中毒症
~Sideハイリ~
口端に付いている白の所為か
その唇は今日、一層紅く見える。
これは……
「なま、くりーむ?」
指を伸ばして掬い取ると
その指は焦凍の柔らかな舌に包まれた。
笑う度に強くなるバニラの甘い香り。
「ああ、言われた通り
ちゃんと食ってる。」
言われた通り、ちゃんと
答えはもう出ているはずなのに
差し出される言葉はクイズのヒントの様
少しだけ首を傾げてみせると
困ったように笑う瞳が
私の肌に沿ってゆっくりと近づいてきた。
触れる舌はいつもより熱く感じるのに
感触は膜一枚隔てたようにもどかしい
柔らかな羽先でくすぐられている様な
海中で藻に撫でられている様な
こちらから要求したくなるような
そんな感触…
見下ろす双眼はその線を緩めて
つ…っと私の目元を撫でた。
「物欲しそうな顔してんな。」
「う、ん…。」
私は、どんな顔をしているんだろうか…
可笑しそうに笑って落とされた口付けはバニラ風味。
現実だと認識するには
あまりに甘い。
なんの夢を見てたっけ
わからないのに
なんだか夢の続きみたいだ
そんな事を思う
ふわふわして
熱くて
見慣れた部屋さえぼやけて見える
もしかしたらまだ夢の中なのかもしれない
そう思えて
焦凍の存在を確かめようと
彼の頬へと手を伸ばした。
「どうした?」
声は聞こえているのに
反応は出来なかった。
ちゃんと触れられた、それだけで安心してしまって頬が緩む。
無言のままの私に
彼は静かに笑い手を重ねてくれる。
そして
眉を下げ呟いた。
「参った、失敗した。」