第17章 【琥珀色】訪問診療録(前編)
~Sideハイリ~
何か言わないと…
口を開きかけた瞬間、
焦凍に腕を取られて勢いよく引っ張られた。
「帰るぞ。」
そのまま進む方向は玄関、だろうか。
前を行く背は止まる気配はない。
問う間もなく空気は変わっていく
状況に付いて行けない私は、一言紡ぐのが精一杯だった。
「え?」
いやいや流石に無理があるでしょう。
まず、帰るも何も君の家はここだ。
このまま出て行ってしまっては
いよいよ家出少年じゃない。
(第一私、服……)
助けを求めてお姉さんを見てみたけれど
なんだか一番オロオロして見える。
エンデヴァーさんも何も言う気配ないし。
疑問は溢れる
空気は張り詰める
焦凍に握られた手首は痕くらいは残るくらい強い。
ずっと向こうを向いたままだ
目を見た訳でもない
なのにどんな顔しているのかわかる。
初めて合ったあの日より
焦凍が纏う空気は重い。
自分の肌まで刺してしまいそうな程とげとげしい。
(こんな焦凍、初めてだ…。)
他人の家事情だ
私に踏み入る権利は無い
だけど
このまま出て行くのは絶対に駄目だ。
足を止めて掴まれた腕ごと引いてみる。
力で敵うはずもないけれど
私の見せた抵抗に鋭い眼光がこちらを向いた。
「っ………。」
放たれた矢のような視線が私の頬の薄皮を割いて
その向こう側の実父へ向けられる。
息を呑み慄いたのは私の方で
直に貫かれたエンデヴァーさんは
眉一つ、動かさぬまま言った。
「焦凍、紹介しろ。」