第17章 【琥珀色】訪問診療録(前編)
~Side轟~
「わりィ姉さん、着替え用意させちまって。」
「いやいや、私の勘違いだったんでしょ?
悪いことしちゃったね、焦凍も言ってくれればいいのに。」
そう言いながらも、顔は随分と嬉しそうだ。
こんなに喜んでくれんなら
もっと早く連れて来れば良かったと思う程に。
廊下を歩く姉さんは軽い足取りで俺の半歩前を行く。
「彼女も実家に帰るん途中なんだっけ?
ご飯は食べて行ってくれるかな?」
「実家帰っても一人っつってたし
良いんじゃねぇか?」
「誰も居ないのに帰るの!?
なんで!?」
もっともな疑問だが
言うに言えねぇ…。
俺を帰らせるためだけに
ハイリも実家に帰るなんざ…。
はぁと息をつき
驚き振り返った姉の視線から目を逸らす。
姉さんは何かを察したように頷いて
それ以上は何も聞いて来なかった。
(…にしても、上機嫌だな。)
昼間、電話越しの声もこんなんだった。
言おうと思えば言えたのに
この声を聞いて思い留まった。
もう少し言うなら
そう言えばハイリなら絶対断れないだろう…そこまで考えた。
まさか雨に降られるとは思ってなかったが、俺としては好都合だ。
懸念材料があるとするならただ一つ
「アイツは?
今日帰ってくんのか?」
「お父さん?
さぁ、どうだろうね。」
笑みを返しながらも曖昧に濁すのは
帰ってくる確率が高いからなんだろう。
確かにここで鉢合わせた暁には
すぐにでも家を出ちまいそうだ。
入学式の日
親父に言われた言葉を思い出す。
『どの縁がどう転ぶかは本人とてわからん。
友人、特に恋人は慎重に選べ。』
とても慎重に選んだとは言えねぇ
かと言ってハイリ以外もう考えられねぇ
いくらハイリが希少な“個性”の持ち主であれど、クソ親父の所望するそれとは真逆のモンだろう。
確認してから連れてくるべきだったか?
そもそもこういうのが嫌だから帰りたくなかったってのに
息をついた瞬間
前方の玄関のドアが滑る音がした。
「っ……お父さん!?」