第17章 【琥珀色】訪問診療録(前編)
~Sideハイリ~
かっっっっ
(かっこいい……ッ!)
最近の焦凍は溜息が多い。
ずっと嫌だと言っていた帰宅を強引に持って行った所為か、今日は一段と多い。
だけど、男の癖に長い睫毛を伏せた憂いの表情
悩まし気な吐息。
綺麗
色っぽい
艶めかしい
どれをとっても男を表す形容詞じゃないけど
焦凍にはどれもぴったりだ。
写真を撮って回る女子たちの気持ちもわかる。
勿論、爆豪くんの気持ちもわかる。
わかる程に思う、
私が独り占めしていいのだろうかと。
そう簡単に譲る気は無い
でももし、焦凍が心変わりしてしまったら…?
なす術なんて私にはない。
一人で家にいる自分を想像しようして、出来なかった。
そして無性に怖くなった。
免疫でもつけるかのように帰省を提案して、今に至る。
だから私が帰るのは実家じゃなく、自宅だ。
「お前は荷物少ねぇんだな。」
流石に手ぶらは不自然だろうと
小さくまとめた荷物には最低限の着替え。
確かに焦凍の荷物と比べたらその差は甚だしいものだ。
だからと言って偽りの帰省に大きな荷造りをする気にもなれなかった。
「ん、実家だもん。着替えはあっちにあるし、ね?」
駅のホームを一緒に歩く。
あまりに焦凍がご機嫌斜めなので改札口までお見送りだ。
私だって寂しいさ、ずっと一緒に居すぎて
「バイバイ、また明日ね」なんて全然言い慣れてない。
「じゃあな。」
「ん、明日? 明後日かな?」
「明日帰る。」
帰るとか…焦凍の家はウチじゃないでしょうに
そんな些細な一言にもジンと来てしまう。
側に居すぎると、幸せも当たり前になって
ありがたみが薄れてしまうものなんだ。
(失う前に気付けて良かった。)
寂しい半分、嬉しい半分
心の温度は平温…より少し低めかな。