第17章 【琥珀色】訪問診療録(前編)
~Side轟~
『明日は実家に帰ろうね?』
休みの前日となれば当然言うとは思っていた。
コイツ部屋に転がり込んだ日からずっと
実家の事を気にしてんのは俺じゃなくてハイリだ。
だから昨日も始まった時は
(やっぱりか……。)
その程度だった。
『心配すんなそのうち帰る。』
『心配してるのは私じゃなくて、焦凍のご家族でしょ!』
『問題ねぇ、気にすんな』
頭を撫でると項垂れながらも渋々と頷いてくれる。
大抵の事はコレで終わるハイリだが
昨日はやたらとごねた。
丸い瞳に眉だけ吊り上げて
人差し指を立てもう片方の手は腰に
説教する時のハイリはいつもこれだ。
『大体ね、焦凍の家族からしてみたら
私は誘拐犯みたいなものなんだよ!?』
『だから連絡してるって言ってんだろ?』
『そう言う話じゃなくて
例え了承があったとしても、非常識だと思われてるって事!』
『だからなんでそうなんだ?』
言ってみりゃ初めての喧嘩かもしれねぇ。
元々イラついてたんだ。
最近、爆豪のハイリへの干渉は拍車がかかる一方。
コイツはそれをイチイチ相手するわ
逆に自分から構いに行くわ
終いにはコイツの中で爆豪の好感が上がる始末。
イラつくだろ、普通。
未だに爆豪の好きな奴を勘違いしたままなハイリにとって、今やあの男は同士に近い。
何度事実を伝えようと思ったか
だがその度に緑谷の言葉が頭をよぎる。
『きっと事実を知ったら楠梨さん、自己嫌悪に陥るんじゃないかな…。』
お陰で言うに言えねぇ。
そんな足踏みをしている間に、コイツの中で爆豪は「クラスメイト」から「仲のいいお友達」になってしまった。