第17章 【琥珀色】訪問診療録(前編)
~Side轟~
「おい。」
「うっきゃあああああああっ!!」
朝と違って車内の空気も緩み切った真昼の電車内
余裕で座れる時間帯とは言え
こんな公共の場で目に涙を溜めてまで何を真剣に読んでんだ。
そう思って肩を叩いただけなんだが
予想以上の反応に俺まで周りに詫びる羽目となった。
多数の訝し気な視線にわたわたと頭を下げるハイリ。
相手が女子高生だとわかった途端その目を緩めるおっさんも
自分の彼女そっちのけでハイリに見惚れる野郎も
正直どうかと思うが、いい迷惑だ。
「あーびっくりした。」
ケロリと笑うハイリに反省の色は無し
罰として読んでた本を取り上げると
その表紙にはおどろおどろしい写真の上に崩れかけた赤字で
『怪談特集~春の特大号~』とあった。
「………これ、お前のか?」
「透ちゃんに借りたの!」
意気揚々と紹介しているが、その目は未だに赤い。
泣くほど怖いなら最初から読まなきゃいい
勿論思ったし、言ってもみたが
ハイリはどうやら違うらしい。
「怖いもの見たさって言うのがあるでしょ!?」
女の趣味はやっぱわからねぇ…。
それを主張するくらいならせめて一人の時に読んでくれ。
ただでさえここは電車内
それに今から俺たちは、それぞれの実家に帰るって訳で
(俺としてはもう少し話してぇ…んだが。)
大体その本も「実家には誰もいなくてつまらないから」って理由で持って行ってんだろうに、今読んだら意味ねぇんじゃねぇか?
もう一度読むのか?
つか一人で読んで大丈夫なのかそれ。
疑問の数は不満と同じ数
いくらでも湧き出て来きた。
当然だ。
大体帰るって事自体、俺は納得してるわけじゃねぇ。
ハイリが帰れ帰れうるせぇから、仕方なく帰ってんだ。
遠慮なく不満を顔に出すと
ハイリが宥めるように俺の髪を撫でる。
「ご不満そうですね?」
「なんでクソ親父と出くわすかもしんねぇ家に、帰らなきゃならねぇんだ?」
「何回も説明したでしょ!?」
「納得いかねぇ…。」
上手く言い包められた
そう思えてならねぇ。
昨夜の会話を思い出しながら
なんでこうなっちまったのか、俺はもう一度考えていた。