第17章 【琥珀色】訪問診療録(前編)
パタン…スッ…パタン…
なんの音だろう…?
まるで襖を開け閉めしている様な…
音はだんだんと近付いてくる
次第に足音も聞こえてくる
(皆が帰って来たんだ!)
どうやら自分たちの部屋がわからないようだ。
ホッとした私は包まっていた布団から飛び出て
部屋の入口の襖を開ける。
その時、気付いてしまった。
(あれ…?
襖の先にはもう一つ施錠用のドアがあるよね?)
いくら古い建物とは言え、宿泊施設に鍵がないなんて今時あり得ない。しかもそのドアは当然襖より重い物。
襖を開ける音がするのに、そのドアの開閉の音が聞こえないなんて、不自然だ。
(どうして……?)
ゾワリ、全身のうぶ毛が逆立った
段々と近づいてくる足音は、人にしては軽すぎる。
なのに何故?
こんなにも耳に響くのだろう?
ヒタ…ヒタ…
ゆっくりと、誰かを探しているように
一つ襖を開けては次へ…
(や、ばい…っどんどん近付いてくるっ)
私は、ここで初めて恐怖し布団の中に包まった。
押し入れなんて怖くて入れない。
かと言って鉢合わせするかもしれないのに外へは出られない。
隣の部屋も、その隣も客は居たはずだ。
ならば寝たフリしていれば…
スマホの電源を落とし、頭まで布団を被って耳を澄ます。
そして、その足音はとうとう私たちの部屋の前で止まった。
スッ……
やはり、外側の扉の音はしなかった。
額が、手のひらが、汗ばんでも拭ってはいけない。
何故だかそう思えて、ピクリとも動かしはしなかった。
ドクン、ドクン
心臓の音がうるさくて
音だけが頼りなのに何も聞こえない。
ただ息を殺して、やり過ごす。
どれぐらいそうしていただろう…
暫くしてそっと顔を出すと
部屋の襖は閉められていた。
皆もまだ帰ってきていないけど
とりあえずホッとしてスマホの電源を入れる。
時間は3時過ぎだ。
(もう一度フロントに行ってこよう。)
立ち上がりかけたその時
ヒタリと冷たい手に腕を掴まれた。
冷蔵庫を開けた時のような冷気が耳元を掠め、男とも女とも言えない声が響く
『ミツケタ……』
ゆっくりと振り返るとそこには―――……