第16章 【琥珀色】CT knock
~Sideハイリ~
だけど文句を言わせたい訳じゃない。
そこだけはわかってもらわないと…。
山のようなプリントを押しつけられ
慌てて押しつけ返す。
持ちたくない訳ではない。
断じてそんなことはない。
今にも手放してしまいそうなプリントを咄嗟に支えながら
駆けてしまわないように腕を掴む。
「待て待て、君の気持ちも大いにわかるっ。
でもね、彼女たちの気持ちもわかるでしょ?」
「あんな陰でコソコソしてるやつの気持ちなんざ
わかりたくもねぇ…。」
心底鬱陶しそうに顔をしかめているが
なんだかんだとヒーローなこの男。
コソコソするのが嫌いなのか
集団なのが気に入らないのか
緋色の目に宿る感情は私の時の比じゃない。
嫌悪感すら垣間見える。
(これは止めないと…。)
実力は随一の男だ。
こんな人から何かされては絶対無事ではすまない。
でもこうやって怒ってくれるから
気が滅入らなくて済んでるんだ。
だから「大丈夫」は嘘じゃない。
言ったら怒られそうでなかなか言えないけど
本当に感謝してる。
「いーや、わかるね。好きな人に恋人がいる
でも諦められない。わかるでしょ?」
チチチと口を鳴らし
立てた人差し指をメトロノームのように振って見せると
爆豪くんはうぐっと息を詰まらせ
その肌色は見る間に赤を増していく。
焦凍ばかり見ている所為か
彼の反応は新鮮かつわかり易い。
(好きなんだねぇ…。)
しみじみと感じてしまう。
もし好きな人が違ったのなら
本気で応援してあげたいって思ったと思う。
不器用な爆豪くんの気持ちは
きっと伝わりにくいと思うから。
(ごめんね…。)
だけどそこは私も譲れない。
今や親友同士で一人の男を取り合ってるかのような
そんな複雑な三角関係が私の中で出来上がっていた。