第3章 【桜色】恋愛性免疫不全
~Sideハイリ~
お風呂……
そだよね、昨日入ってないもの。
私もシャワー浴びたい。
だけど、平然と出来るほど私はこの手の免疫を持ち合わせていない。
当然言葉が出て来るはずもなく、火照った顔を隠すように頷くと返事はサラリと返ってくる。
「あ、ハイリ先に入るか?」
この人はなんでこうも飄々としてられるんだろう?
慣れてるんだろうか?
そもそも、
いつの間に名前で呼ばれるようになったんだろうか?
ぐるぐる考えながら、ただ首を横に振る。
振りすぎて頭が取れてしまいそう。
私の反応に面白そうに笑った彼は、部屋を出る間際にふと足を止め振り返った。
「ありがとな。」
それは時が止まってしまったとこちらが錯覚する程の優しい笑顔で――何かが動いた胸に思わず手を当てる。
「…っっお風呂くらい、気にしないでいいよっ!」
直視できなくて慌てて背を向けた。
そもそも私が迷惑かけたのが始まりだったわけで、
私の騒動にあなたは巻き込まれてしまっただけであって
ただの親切に何かしらの不具合が重なってこうなっただけ
そうだ、ゲームのバグのようなものだ
それだけじゃ説明つかない部分を無理やり切り離し
頭の中でそう結論付ける。
早く起きて覚醒しきった頭は良く回るものだ。
バグだと言い聞かせる言葉を追いながら
隅ではちゃんと事実を肯定している自分がいた。
(うそだ…あり得ない。
昨日会ったばかりだよ?)
バスルームの扉が閉まる音を背にしゃがみこむ。
昨日感じた予感は想像していたよりずっと早く、予想より大きく成長してしまったようだ。
熱い頬に両手を当てて
何度も何度もこの感情の名前を確認する。
(好きなんだ…
好きになってしまったんだ……っ。)
あり得ない、何度も叫ぶ言葉とは裏腹に
高鳴る鼓動は痛いくらいに事実を受け入れろと告げていた。