第16章 【琥珀色】CT knock
~Sideハイリ~
キスをする時
いつもは恥ずかしくて目を閉じてしまう私だけど
こういう場合、どちらが一体恥ずかしくないのだろうか…?
閉じたら受け入れたことになってしまう。
かと言って開いていたら…
滲む視界
しかも見える範囲は限られている。
それでもわかる、
多分ここに居る皆が注視しているでろうことが。
知らない振りを出来ないくらい突然で
見ない振りを出来ないくらい意外だったんだ…。
泳ぐ視界に固まったままの爆豪くんが映り
カチリと音をたてて視線がかみ合った。
苦々しい表情を目にした途端
その視界を焦凍が塞ぐ。
「よそ見する余裕があんのか?」
「余裕…とかじゃ、なくて…。」
余裕がある訳ない
わかっても良そうなものなのに
わざとらしくついた溜息が
静かな教室にその感情を主張しながら落ちていく。
「ハイリ…俺はこれでも怒ってんだ。
わかるよな?」
頬を髪ごと両手で包まれて
ゆるゆると額を押し付ける
甘えるような仕草と甘やかす様な声。
なのに
間近で合った瞳は鋭く
反論ごと私を貫いた。
「はい…。」
焦凍の片手が頬から顎を伝い首筋をなぞる
ヒリと痛む箇所を主張するがごとく何度も撫でられると
否が応でも思い出す。
あの晩この教室で焦凍と約束した事を。
『お前に痕付けていいのは
俺だけだよな…?』
私は確かに頷いたんだ。
「ごめんなさい…。」
あんな小さな傷でも心配する人だ。
それこそ追い詰められてかのように…
(なのに…)
撫でられている首筋はそこに指が触れる度
ヒリと痛む。
きっと赤くなっているんだろう
あの時の比じゃないくらい
はっきりと痕が浮かんでいるのだろう。
「ぁ…っ」
あの日と同じように
その傷をかき消すように焦凍の舌が這う。
そんなつもりじゃなかった
言い訳でしかない言葉は、言っても絶対意味がない。
自分が招いた事だ。
「ごめんね…。」
もう一度だけ呟く
人前で恥ずかしい事を除けば
こうやって怒ってくれてるって事
私は嬉しくてたまらないんだ。
抵抗を見せていた腕の力を抜き
全てを受け入れるべく瞳を閉じた。