第15章 【琥珀色】MRI knock
その芦戸がだ、あの混乱の生みの親である芦戸がだ
昨日の自分の一言を全てすっ飛ばして、トンデモな勘違いをしているではないか。
しかも二人の乙女の会話は不思議とかみ合っているが、間違いなくすれ違っている。
事実を…真実を知る耳郎が焦る理由はただ一つ。
ハイリがこれまたトンデモな勘違いをしてるという…その一点のみ。
「同じ気持ち」「爆豪の好きな人」
これらのワードが導く答えを弾き出しふと考え直す。
(いや、だからってこれじゃ…。)
ハイリは…爆豪が轟を好きだと思い込んでいる、そんな結論になってしまう。
いくら何でもそれは無いだろう。
ない…だろうか?
フムと添えた指は自分の顎へ
それから本人には悟られない様、チラリと横目でハイリの表情を盗み見た。
よく見ればすぐにわかる。
隣に居る芦戸のテンションが高いからなおさらだ。
既に音符マークだけじゃない、ハートマークまで飛び散らしているクラスのムードメーカーと違って、ハイリは明らかにどんよりと…
ともすれば今にも泣きだしてしまいそうな顔をしているではないか。
好きな相手が自分と同じ気持ちだと断言されて、あんな顔をする乙女が何処にいる。
(芦戸、気付け。)
耳郎はすかさず心の中でツッコんだ。
そして己がすべき行動を弾き出すまでに
さして時間はかからなかった。
(ツッコむべきだわ
止めるべきだわこれ…。)
ふと我に帰って見直せば
既に教室のドアに手を掛けて手招きしているハイリ。
そして未だに桃色の音符とハートを周囲にまき散らし、彼女の背を楽しそうに押している芦戸の姿。
(マズイ…このままあの渦の中に
爆弾を投下する訳にはいかないっ!)
もはやそれは、ヒーローを志す者の性分なのか
はたまた、実は彼女は苦労気質なのか
「待っ……!」
一歩踏み出し手を伸ばす
しかし、その手もその声も二人の乙女に届くことは無く
蝉騒を遮っていたそのドアは開かれた。