第15章 【琥珀色】MRI knock
それ故上鳴の言葉に、耳郎は驚かなかった。
驚かなかったのは彼女だけではない。
観察力の優れている緑谷
広い視野と冷静さを備えた蛙吹
当然だ、ハイリを注意深く観察していればよくわかる
耳郎自身は気付いてから観察したから尚の事。
ハイリの視線はふとした時にあの紅白の髪を追っている
その表情を見てしまえば、どんな感情を轟に抱いているのか…
例えあの日あの会話を聞いていなくとも気付けただろう。
そして
運の良い事に、二人も無暗に他言するような人間じゃない。
ここまでハイリの好きな相手が公にならなかったのは
まさに、良識と信頼関係の賜物だと言える。
しかしそこにだ
もう一人…もう一人いたのだ。
『って言うかあの二人、付き合ってるよねーっ!』
それが芦戸だった。
悪意があった訳ではない
信頼がない訳では決してない
彼女は…天真爛漫なだけなのだ。
ヒラヒラと、スカートのすそを躍らせ
顔の周りにまで桃色の音符を振り撒きながら語尾を上げる芦戸
その姿に
『『『ハァァァァァァァァ!?』』』
室内には窓を割らんばかりの
絶叫と言う名のハーモニーが鳴り響く。
勿論そのハモリの中に耳郎のアルトもあった訳だが
その真意は他の声とは違う所にあった。
何故言った?
なぜ今言った?
混乱しか招かないだろうにどうして言った!?
今まで黙っていたのになにゆえ今言った!?
芦戸が事実を知るに至った経緯は定かではないが
はっきり言い切ったところを見ると確証を得ていたのだろう。
くしくも耳郎の予想どおり
芦戸の言葉はクラスメイトを混沌の渦へと誘い
爆豪の怒号が響くまでそれは続いた…。