第14章 【琥珀色】後天性片想い
~Side轟~
見開かれた目は、いつも大きな亜麻色が小さく思える程に
同じ色の髪は気のせいか逆立って見える…。
口を覆っていた筈の細い指は、力を無くし胸の高さまで降りてしまった。
ヒーロー基礎学後の男子更衣室
その扉を自ら開けてしまったハイリの姿は
「驚愕」の一言で片付けるにはあまりに気の毒なモンだ。
(やべぇ…。
トラウマになり兼ねねぇ…。)
そう思って手を伸ばしかけた瞬間
いつもより色の失せた唇が、戦慄いた。
「ぃ……っ」
「い?」
「っ…嫌あぁぁぁぁぁぁ――――っっっっっ!!!!」
一瞬で視界から消え去った様は、もう脱兎どころじゃねぇ。
下手したらクラスで一番速いんじゃねぇかと思っちまう程。
半音下がりながら遠のいていくハイリの叫びを聞きながら
苦笑を漏らす。
(…………ドップラー効果、か?
救急車じゃあるめぇし…。)
更衣室は隣だってのに
絶対アイツ体操服のままどっか行きやがった…。
ドアを閉め、振り返ると
着替え終わった奴もいるが大半が着替え中
未だに俺が着替えんのも席を外すような女だし
無理もねぇが…。
早々に着替えを済ませて迎えに行こうと
奥へ進む俺の耳に届いたのは、緑谷の冷静な一言だった。
「そうか、こういうのって見ても見られても
女の子が被害者なんだ…。」
腕を通しかけたシャツはそのままに
閉まりきったドアを呆然と見つめながらぽつりと零す。
的確にこの場を分析しているその発言は、男からしてみりゃなんとも理不尽なもんだが…
(確かにな…。)
緑谷の視線の更に先、
ハイリが向かったであろう方向を見てクスと笑う。
その様をクラスの奴らに見られてた事など
次の言葉が掛かるまで全く気付かなかった。