第14章 【琥珀色】後天性片想い
~Sideハイリ~
笑う気配と触れた吐息
身を固めて動かないのは、期待したからなのだろう。
この時点で私の負けなんだ。
「………?」
不自然な間に目を開くと
触れるまで僅か数ミリの距離を器用に保ったまま
いつもより開かれた目が不思議そうに問う。
「今日は、駄目って言わねぇのか?」
「……え?」
傾げられた首と珍しくまぁるい目は
尚更その疑問を強調しているようで
理解するより早く、足が一歩ずり下がる。
人ひとり分の距離を保っても動転した心は鎮まらず
空に視線を逃がしては、細く息をついた。
(ダメ…って……。)
言われるまでそんな事確かに思わなかった。
嬉しそうに徐々に細められていくオッドアイを横目で盗み見る。
これは素だ…ちょっとかわいいけど
意地悪じゃない分、質が悪い。
耳が火照っていくのがわかるではないか。
ああもう…
この恥ずかしさを何処にぶつければいい。
行き場を無くした熱のせいで、耳だけじゃなく全身が…熱い。
(キスされるのかと思った
そして逃げもせず、待ってしまった。)
それが事実だ。
いつも駄目だと言いながら、なんて浅ましいの私…。
プライドが声を押し殺しているけれど
大声で叫びたいくらいだ。
「どうした?
目が泳いでっぞ?」
どうしたもこうしたも無いんだよ。
私の反応に気を良くしたのか
惜しみなく注がれる甘い眼差しを直視できない。
視線はその眼差しを僅かに経由して、空から地へと
今度は真横に伸びている自分たちの影へと固定される。
「ハイリ…。」
囁くように名を呼ばれ、ゆっくりとその影が重なり合う。
今度はちゃんとわかっていただろうに
それでも私は動かなかった。