第14章 【琥珀色】後天性片想い
~Sideハイリ~
そんな大人な空気も時間が経てば薄れゆく。
薄紅色の桜もすっかり若緑となってしまった初夏の頃。
クラスメイトの診察は
もう日課となりつつある午後の一コマ。
私は今日も挑んでます。
「常闇くん…出来れば目を見て欲しいのだけど。」
「必要ない。
病に伏した時はそれも俺の定め。
受け入れるのみだ。」
フイと逸らされたまるで烏な横顔は
もう見飽きてしまったと言って良い。
何度トライしても一向に目を合わせてくれない彼の名は
常闇踏影くん。
「だから、ね…?
そうならない為の健診でして…。」
流石…雄英ヒーロー科。
一筋縄ではいかない。
なんて言ってられるか!
少なくとも彼は
目を合わせたくないだけなのだ。
「常闇くん!!」
「黒影(ダークシャドウ)。」
『アイヨ!』
彼の“個性”は黒影(ダークシャドウ)
なんとモンスターをその身に宿しているそうな。
そうなと言ってみたけど
ばっちり紹介はして貰った。
寧ろ常闇くん本体よりコミュニケーションを取っている気さえする。
名前を呼ばれたダークシャドウくんは
返事と共に彼の足元から顔を覗かせ
主を守るべく、私の前へ立ちはだかった。
ユラリと見下ろす黒い影
認識できるのはその形と、鋭い目らしきもののみ。
いくら“個性”社会といえど初見は誰だって面食らうだろう。
だけど意外に
『大丈夫ダヨ。』
…結構可愛かったりする。
「うん、ダークシャドウくんを
診察できれば良かったんだけどね…。」
残念ながら“個性”である彼は診察できなかったのだ。
そして、本体はどうしても私と目を合わせたくないらしい。
診察一つでこのザマだ。
(こういうパターンは考えてなかったけど
そうよね。そう言う人もいるよね…。)
カチカチとペンを鳴らしながら
メモを取る。
この診察はあくまで私の“個性”強化が目的だ。
だから強制じゃない。
受けるも受けないも患者さん次第だ。
個性的な“個性”ばかりなこのクラス。
診察をしようとすればするほど
私の“個性”はホント不便だと思い知る。
(診察するより、そこに至るまで方が難しいのかもしれない。やっぱり人に使おうとして、初めて得るものって多いのね。)