第13章 ♦番外編♦ 熱焦の瘢痕
~Side轟~
脱力して重みを増した頭をハイリの肩に埋める
俺の過ごす時間の中で最も無防備な時。
俺に敷かれたハイリはその肩を小刻みに震わせ
笑っていた。
「オイ…」
「ごめ…っ」
言いてぇことは勿論ある。
突然クソ親父を思い出させるわ
何も言わずに果てちまうわ…
募るのは文句ばっかだ。
だが…
「ヘヘ…」
頭を上げて見下ろした顔には
蕩けきった瞳と緩やかに上がった頬。
幸せそうなその表情に内に秘めていた不満は
呆気なく消え去った。
(卑怯なヤツ…。)
こんな顔されたら文句なんざ言えねぇし
それ所かなんでも受け入れてやりたくなる。
詫びてる時点で俺が不完全燃焼のままって事は気付いてるんだろうが、気にしてはないらしい。
おめでたい頭の中は既に遊ぶ事で満たされている様だった。
「ね、明日…あ、もう今日か。
何しよっか?」
無邪気に投げられた問いはもう何度目か
最近ようやく慣れて来た。
休みの度に何するだ何処行くだ…コイツはとにかく忙しい。
今までそんなこと考える間も無かった。
精々、姉兄達が遊ぶのを遠巻きに羨む程度。
だから、俺の返事は間違いなく願望だ。
「一緒に居る。」
「またぁ?
君はたまには違う事をだね…。」
「じゃ、ずっと一緒に居る。」
「うーん、あまり変わって無い様な…。」
大袈裟に肩で息をつきながら文句を垂れる口を塞ぎ
言葉とは裏腹に甘く蕩けた瞳を覗きこむ。
甘やかして甘やかされて
がんじがらめに囚われて
理性があろうがなかろうが、もう離れらんねぇんだ。
「一生…一緒だ。」
三日月に細められていた瞳が大きく月の形を満たし
また欠ける。
言葉なくふわりと微笑んで
細い指先が俺の髪を滑る。
まどろむ頭はその心地良さに瞼を伏し
伏した瞼は開ききることは叶わない。
「眠いのかな? 今日はもう寝ましょうね?」
柔らかなささやき声と優しく啄まれた頬
手探りで抱き寄せた安心する温もりを逃がさないように閉じ込める。
(結局、何するか決まってねぇな…。)
もがく華奢な身体を抱き込んで目を閉じたまま笑う。
そのまま今日の長い夜を終えた。