第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Side轟~
「良いんじゃないかな。」
暫くの沈黙の後
ぽつりと呟かれた言葉は予想とは別のものだった。
それは
親父を完全否定すると言った人間に対して掛ける言葉にしてはあまりにも柔らかい言葉。
こんなに洗いざらい話したこと自体初めてだが
ここまでの話を聞いて普通肯定するか?
真っ直ぐに絡んだ視線には懇願にも似た色が見えた。
「私は、幸か不幸かいろんなヒーローを知ってる。
そんなヒーローが居てもおかしくないと思う。
それが自分のなりたい姿なら、それでもいいと思う。」
「………。」
なんでここまで必死になってんのか
逆にこっちが気圧される。
細い指が伸びてきて目元に触れたかと思うと
確認するように覗きこまれた。
「でもたぶん、轟くんがなりたい姿は違うんじゃないかな。
じゃなきゃ、こんな悲しそうな目はしないよ。」
コイツの目に俺はどう映っているんだろうか。
困ったように眉を下げて笑う姿はまるで
子どもに手を焼く母親のようで
言葉を紡ぐ口元から目が離せない。
「だから……
なりたい自分になっていいんだよ?」
頭を撫でながらそう言ってふわりと笑う。
柔らかい笑みと声はあまりに温かい。
どこか懐かしく思えるその言葉に俺は確かに救われたのに
同時に目の前の女に心ごと囚われた。
そんな
奇妙な感覚に襲われた。