第13章 ♦番外編♦ 熱焦の瘢痕
~Sideハイリ~
「ハイリにも俺の名前書きてぇ。」
「名前…?」
理解しても尚、聞き直さずにはいられなかった。
まさか名入れのおねだりとは……
この人の発想はいつも私の予想の斜め上を行く。
きっと今の私の目はいつもの倍は大きんじゃなかろうか。
呆気にとられた頭はつらつらとツッコミを連ねた後
静かに疑問を浮き上がらせる。
「これじゃ…ダメなの?」
指し示した肩にある印は、今日のか昨日のかもうわからない。
毎夜のように「自分の物だ」と言いながら付けているし、言うなればこれが名前みたいなものじゃないだろうか?
これではダメなのか?
私の疑問はごく自然なものだったと思う。
だけどどうやら
先程の「面白くない」の根拠はここにあった様だ。
「それだと消えちまうだろ…」
そもそも名前じゃねぇ
若干ふて腐れてそう言う姿を愛おしく思うものの
出たのは苦笑だった。
消えない名前なんて大分限られてしまう。
第二候補のネームペンで名前を書くって言うのも
この言葉で帳消しされてしまった。
(うーん…困ったな。)
どんなおねだりだろうが聞いてあげたい。
そう思ったばかりだと言うのに
私の心は、どうしてもそれを拒絶したくて堪らなかったんだ。