第13章 ♦番外編♦ 熱焦の瘢痕
~Sideハイリ~
「笑う所じゃねぇ…。」
言葉とは裏腹に
ぐりぐりと押し付けられる額。
背に回された腕に力が籠り、触れ合う肌の面積が増す。
笑いながらじゃれ合う姿はきっと
動物のそれと、さほど変わらないだろう。
かぷりと首に噛みつかれ、仕返しに背を叩くと
見上げていた視界は一転し
今度は焦凍を見下ろす体勢となった。
「髪が顔に掛かって擽ってぇな。」
クツクツと喉の奥で笑いがら私の髪を耳にかけてくれる。
掛けたからと言って別段長さが変わる訳でもない。
相変わらず焦凍は擽ったそうに首を振っているし
私はそれが面白くて離れてあげるつもりもない。
ただゆらゆらと首を振り、笑う焦凍を見下ろすだけ。
胸がじんわり温まる。
なかなか見られない光景だもの。
焦凍の上に乗る事もそうだけど
こうも無防備に接してくれるのは珍しい。
学校ではもちろん
家にいる時だって隙の無い人だから…。
こんな状態で、ねだる様な眼差しを向けられれば
頬が緩んでしまうのはもう仕方のない事だ。
「名前がどうしたの?」
もう一度問いながら
頬に添えた右手の親指で火傷の痕を撫でる。
もう癖になってしまった気さえする。
癒したい、そんな思いから始めたこの所作も
今ではただ愛おしんでいるに過ぎない
この痕も含めて、全てが彼なのだと。
今ならきっと――
どんな無茶なお願いをされようと、受け入れてしまうだろう。
知ってか知らずか、そのおねだりは
中々な難題だった…。