第13章 ♦番外編♦ 熱焦の瘢痕
~Sideハイリ~
色違いの双眼がスィと近づき
鼻が触れ合った。
「ちげぇ…別の話だ。」
コツンと額が重なって、そこから安心する温もりが伝わる。
焦凍は瞳を悪戯に上げて子供の様に笑った。
良かった…
機嫌が悪いわけでは無いみたい。
「待って」ばかり繰り返していたから、怒ってしまったのかも…なんて考えていた私は、一先ず安堵の息をつく。
「はぁ…、びっくりした。」
こんな暗がりでは赤と言うより黒に近い、
そんな色味の髪を指で梳く。
右手から零れ落ちるその黒と、白い髪の隙間から覗く黒い瞳、
この色味の中で唯一の翡翠色である左目は、火傷の痕に覆われて一段と映える。
間の抜けた言葉にその目を細め、もう一度笑った焦凍は
私の問いを待つかのように見つめ続け、口端を上げていく。
逆の立場なら意地悪で絶対問うてくれないんだろうけれど…
こんな無邪気な顔を向けられて、私が逆らえるわけない。
そんな自分の考えに吹き出しながら
望みどおりの言葉を付け足した。
「どうしたの?」
「面白くない」そう言ったのは事実だ。
二人きりのこの部屋で、そんな言葉呟かれれば
その原因が誰かは明白だと思う。
促されたとはいえ、私の疑問であることには変わりない。
返事は、きちんと用意されていたんだろう。
間髪入れずに投げ返された。
「なぁ、ガキの頃自分のモンには名前を書けって
言われたよな?」
「……………ん?」
いつになく突然だ。
てんでバラバラな順序を踏んで
もののついでのような告白を受けた上で付き合うに至って
今更…ムードなんて言葉求めてもいないけれど
ついさっきまで男とは思えない程の色香を放ち
私を翻弄していた彼は何処へ…。
今や一変して純粋な疑問をぶつける子供の様だ。
(可愛い…。)
吹きだすのを堪えるので精一杯な私は
額を触れ合わせたままにも関わらず何度も首を縦に振った。