第12章 【桜色】ヨマイヤマイ
~Side轟~
向けられた瞳は見覚えのあるものだ
悲し気に揺らし決してそらさねぇ。
どうにかしようと必死になってる目だ。
だけど、決定的に違う点が一つある。
(あの時は、こんなに感情的じゃなかった。)
もっと穏やかで、落ち着いていて、諭す様な口調で
それこそ大人びた表情で
こんなにテンパってなかった。
突然胸ぐらを掴まれたかと思ったら
堰をきったように話し始めたハイリ。
余裕の無いその表情に
思わず目を見張った。
「でも、でもね? それでも治したいって思うなら…
私が治す! 治療、得意だし! 大丈夫! たぶん!!
だからね…その…」
涙浮かべた目ぇ上げて、必死に縋りついて
これじゃまるで、構えと鼻を鳴らす犬みてぇだ。
普通に聞いてりゃ
間違いなくこっちの方が説得力がねぇ。
どう聞いたって私情丸出しだ。
勢い良く並ぶ言葉も、徐々に拙くなって
言葉が纏まらないのか声のトーンも落ちていく。
瞳を揺らしながら一度閉じかけた口は
恐々と開かれた。
「……治るまで、一緒に居よう?」
「ね?」と首を傾げ窺う顔が
急に初めて会った時の事を思い出させて
それが無性に可愛くて
自分が抱えていた罪悪感なんざそっちのけで噴き出した。
それ見てキョトンとした表情まで仔犬みてぇで
全身を覆っていた負の感情が静かに腹の底へと降りていく。
初めて聞いた可愛すぎるハイリの我儘に
やっと安心できたんだと思う。