第12章 【桜色】ヨマイヤマイ
~Sideハイリ~
「わからないよ。
だって私、好きになったのも付き合うのも初めてだし。」
君と違って…
付け加えかけた言葉は
場にそぐわないだろうと、敢えて飲み込んだ。
私にだって独占欲はある。
今はまだ日が浅いだけで、きっと嫉妬だってする。
いつも飄々と、余裕綽々で滅多に表情を崩さない焦凍。
何かと手慣れているし動揺しないし…。
そんな彼を好きになっておいてなんだけど
翻弄されてばかりの私としては、やはりもやもやしたりもするんだ。
こんなに沢山の感情をぶつけてくれたことは初めてで
だからこそ嬉しかったんだけど…
(私がおかしいのかな…?)
ますます
わからなくなってしまった。
つまりこの感情は悪い事なのだろうか…?
一つの行動に対して
対極に位置するお互いの感情。
考え方が違うのは人それぞれだ
押し付ける気はない…
いつもの私ならそう考えるはずだ。
だけど、その内容と相手に
私は初めて、その恐怖を意識した。
(別れを切り出されたらどうしよう…)
恐怖が
頭と心を切り離す音が聞こえた気がした。
きっとこれは人を説得するうえで
一番持ってはいけない感情。
だけど纏まらない頭より
強い感情の方が勝ってしまったんだ。
「だけどっ…だけどね…」
押し付けるものじゃない。
もっと冷静に話すべきだ。
頭はそう答えを出しているのに
口が心のままに動く。
「私は嬉しかった…
一般的にどうかはわからないけど
意識せず自然体で良いと思うっ
私は…そのままが良い…っ」
彼の胸に埋めた顔を上げて訴える。
この言葉をきいて、どんな顔をしているのか。
確認したかったのに、滲んだ視界ではよくわからなかった。