第12章 【桜色】ヨマイヤマイ
~Side轟~
薄墨に落とされた朱色が
ぼんやりと確実にその輪を広げていく
迫り来る息が詰まりそうな感覚に
思わず自分の胸を掴んだ。
突然締め付けられたような
ギュっと狭くなったような甘苦しい痛みが
俺の心を撫でる。
揺さぶるのも
それを癒すのも
(やっぱりハイリだけだ。)
背をかけ上がる精神的快楽。
自身の質量が増していく。
ソレを抑え込むような締め付けに
思わず眉を寄せ、深い息をついた。
ハイリとの距離を出来るだけ詰めたくて
崩れ落ちそうなハイリの身体に手を回す。
たおやかな身体を抱き起すと
ひたりと触れた肌の感触は
柔らかくて温かい。
人肌が恋しいと言うが
俺がもしそう思う事があるなら
間違いなくこの肌だけなんだろう。
そんなことを考えながら
自然と細められた視界は不思議と明るく
たった今、正気に戻ったのだろう事に気付いた。
この部屋の照度なんざ全然上がってねぇ
寧ろ落ちてるくれぇだ。
どれだけ負の感情に囚われてたんだか
最高潮な興奮さえ、まともに味わえてなかった。
(どおりでイケねぇワケだ…。)
降っては晴れ
時化ては凪ぎ
島一つ見えぬ海に投げ出されていたような欲求が
ようやく浜へとたどり着く。
「当たり前だ…」
上げた口角は緩やかに
昇り詰める直前
寄せた耳元へ一つ口づけ
この夜初めて、ハイリの為に笑った。