第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Sideハイリ~
個性婚
自身の“個性”をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び、結婚を強いる……倫理観の欠落した前時代的発想。
それを私が知らない訳なかった。
静かに頷くと轟くんは座り直して一つ息をつく。
それからぼんやりと左の手の平を見ながら話し始めた。
「俺はそれで出来た子だ。
親父は母に愛のない結婚を強いて、追い詰めた。」
半冷半燃。
二つの属性を掛け合わせた自分の“個性”は、父親の欲求を満たす為に故意に作られたものだと嘲笑う。
父の“個性”を宿す左側に煮え湯を浴びせた母を、自分が追い詰めたと瞳が語る。
そんな母を強制的に入院させた父を嫌悪すると全身が語る
抱いた痛みは朝感じた以上のものだった。
「朝のは診断じゃないってことはわかった。
だが俺が聞きたいのはなんで『辛い』って聞かれたか、
それだけだ。」
想像以上に踏み込んでしまっていた。
軽はずみな言葉を放ってしまったことを今更後悔する。
それでも立ってしまった後悔を無視する事はもう出来なかった。
気合を入れるために息をつくと
はぁと漏れる音がやけに響いて聞こえた。
「念を押すけど、これは診断じゃないからね? “個性”とは関係なく、あくまでこれは一個人としての見解だけど…。」
気を紛らわすために無心で食べていたお蕎麦はもう空だ。
正面に座るのが辛くて壁際のベッドへと腰を降ろす。
想定外だったのは轟くんも隣に腰かけた事だ。
それでも向かい合っているよりは幾分マシ
そう考えて、言葉を続ける。
「人の心理なんて一定なわけがない。
今は確かに恨み言で心は満たされてるかもしれないけれど。
朝はそんな感じじゃなかった。
なんだか悲しさから逃げてるみたいだった。
そんな風に見えた。」
正直に答えたものの静かに注がれた視線があまりにも痛い。
耐えられなくなった私は、もう少し距離を保つため
そのままベッドの奥へとずり下がった。