第12章 【桜色】ヨマイヤマイ
~Side轟~
開いたシャツの隙間から手を入れ、わき腹を撫であげる。
驚き跳ねた身体をその手で支えながら壁に預け、
もう片方の手を壁につく。
言うまでもなくコイツは悟ってるんだろう。
それでも言いたかった。
「ハイリが欲しい…。
今、だ。」
潤んだ瞳が熱をもち、期待の色を揺らす。
背伸びをして縮まった距離の後
優しく触れたキスはきっと
了承の証…。
変な奴だと最初は思った
不思議な奴だと
だが
どんどん巻き込まれて
急速に惹き込まれて
遂にはコイツしか見えなくなった。
「…ぅ…んっ……」
首筋に舌を這わせ
開かれたシャツを滑り落とす。
もう腕にしか掛かっていないシャツが
儚く揺れる。
露わになった肩を甘噛みし
痕を確認する度、ハイリの呻き声が漏れる。
既に散りばめられた赤い花弁は
もはや痛々しい程鮮やかに咲いていた。
鼓動は鳴り散らす
血だって逆流して全てが頭に昇ってくみてぇだ
それでも与えられた充足感は
どこかで心を落ち着かせていく。
安心感
よく聞く割に
俺から最も縁遠い感情。
コイツはまるで麻薬だ
一度味わったらもう無しではいられねぇ。
中毒症状を抑えようと肌を食む度に
ハイリの力が抜けていくのがわかる。
支えようと背に回した手
ふと指先に触れた感触に
絶え間なくハイリの身体を弄っていた手が止まる。
「………。」
頭は瞬時にその正体を理解した。
カサリと触れたのは
ハイリらしくもねぇざらつき。
確かめるまでもねぇ。
たぶん見ない方がいい。
だけど人間ってのは
参ったことに怖いもの見たさって感情が
どうしてもある生きモンなんだ…
「ハイリ…背、見ていいか?」
僅かに動揺し後ずさった足が何かに触れる
カタリと鳴ったその音が
見たくねぇと無意識に蓋をしていた俺自身を呼び起こした。