第12章 【桜色】ヨマイヤマイ
~Side轟~
「ハイリ…」
「ん?」
すべて受け入れてくれるような微笑みに
自分が今まで何をしていようとしたのか
何を確認しようとしていたのか
思考までもが溶かされていく。
名を呼んだことに意味はねぇ
ほとんど無意識に出て来た言葉に
何より俺が驚いた。
不思議そうに小首を傾げたハイリの手に
頬を包まれ引き寄せられる。
大きな瞳が近付いて
軽く、触れるだけのキスをくれた。
『大丈夫だよ』
そんな声が聞こえそうだ。
薄明りに浮かぶのは
今求めようとしたばかりの姿だけだ。
憑き物が取れたかのような感覚に
肩の力を抜くと
ハイリは肩をすくめて困ったように笑う。
見覚えのある、大人びた表情…。
「私、動転し過ぎだよね…?」
俺の心内なんざ何も知らないハイリは
自分が悪いとばかりに言い訳を立て
申し訳なさそうに笑っていた。
「いや…」
違うとすら言葉が出ねぇ
なんでこんな馬鹿な事考えたのか…
今となっちゃ皆目見当もつかねぇ。
言葉の代わりに、頭を撫でて髪を梳く
ひと房取って唇を寄せると
きっと、
よっぽどひでぇ顔を見せちまったんだろう。
ひどく…安心したように笑った。
「悪いのは私だよ…?
ごめんね…。」
コイツは
本当に無意識なんだろうか。
普段はこれでもかってくれぇフワフワしてんのに
俺が不安定な時ほど大人になる。
まるで、俺に合わせてるみてぇだ。
だから…
そんなお前だから
際限なく求めちまうんだ。