第12章 【桜色】ヨマイヤマイ
~Side轟~
何故こんな事を始めたのか
自分は何がしてぇのか
二日前を再現しきってしまえばわかる気がした。
なのに
気まぐれに作り出した過去は勢いを増し
全く違う欲へと形を変える。
あの日を再現していた筈が
いつの間にかそうではなくなっていた。
ただ
一つの要因を除けば。
「逃げないよ…。」
目を合わせまいとしていた事さえ
気付かれたんだろう。
ハイリは俺の目を覗きこむこともせず
手を引いて教室の奥へと歩きだす。
何が言いてぇのか
何をしてぇのか
何も言葉が出ないまま
黙って付いて行く。
辿り着いたハイリの席。
俺に乱された服も直さず
くるりと振り返ったハイリは
恥ずかしそうにはにかみ
俺へと腕を伸ばした。
「絶対逃げないよ。ね?」
向けられた笑みは
もう見慣れたと言って良い
なのに未だに見る度に熱を持つ。
首に巻かれると思っていた指がその先へと伸び
髪に絡まるのがわかる。
安心させるようにと撫でたのは背ではなく髪。
二日前との細やかな違いは
ハイリと俺の距離が近付いた事を示しているようで
(あの日と同じだ
いや、あの日以上に…)
脳を直接震わす様な言葉とその仕草に、
刺々しく荒ぶっていた心の波が一瞬で凪いでしまう。
向けられた笑みは
この薄闇の中だからこそ
闇夜を照らす月の様に思えた。