第11章 【桜色】慢性合理的疾患
少女と対面する少年は
試合開始前と違い、口端を生意気に上げ
ここからでは聞き取れない言葉を口にしている。
押し倒され
いっぱいいっぱいである筈のハイリは
それに肩を揺らして笑う。
相澤は息を静かについた。
やはり間違っていなかった。
心を放つ鍵が必要だった。
自分たちが閉じ込めてしまった扉の鍵が。
この学校で見つけてやらねばと思っていた。
だが自ら見つけた。
偶然にもそれは自分の生徒で
間違いなくいい方向に進んでいるのだろう。
ゆっくりでいい
自分で進むべき道を見つけてくれればそれでいい。
たとえそれが
大人たちが望んでいる道でなくとも。
それが、最優先事項。
このクラスでならきっと出来るだろう。
何故ならここは雄英ヒーロー科
日本一のヒーローの卵が集まったクラスなのだから……。
担任を見る生徒たちは
その言葉に頷きつつも目を見張った。
ハイリを見るその目が
別人のように柔らかく細められていたからだ。
委員長、飯田は
その固い性格をトレースしたような仕草で挙手し問う。
「ではやはり、除籍というのは
先日同様、楠梨くんの最大限を引き出すための
合理的きょ―…」
「違うな、アレは俺の自己都合。
ハイリが立ち直ったか見定める為のな。」
飯田の言葉を遮った相澤は
目を和らげ眉を下げ、口の片端が僅かに上を向け笑う。
それは初日とは違い自己を嘲笑うものだった。
「「「―――……っ!」」」
朝、散々「酷い」と腹を立てた女子たちは、下を向いた。
「理不尽だ」とハイリに同情を寄せた男子たちは、目を泳がせた。
昨日も今朝も、全ては―――…